地下

健康増進法の影響でタバコの吸えなくなったそこは相変わらず薄暗く空気の循環が悪い。バーカウンターでは既に酔いが回りすぎている人がちらほらいて、その人たちを避けるように重い扉に手をかける。力を入れて開けたその先からスモークが少し漏れもっと暗い中の景色が見える。転換中だった。最前列にほど近い場所から手を挙げておーい、と呼ばれる。私もわっと手を挙げ返してすみません、すみませんと幅の狭い人の間を通り抜け友達の元へと行った。遅かったね、と声をかけられ仕事だったからねと返した。ドリンクは?ううんまだ、そっか、私もまだだから後で乾杯しよう、そんな掛け合いをしながら私は背負ってたリュックをおろし足元、柵にもたれ掛けさせるように置く。良かった、見たかったバンドは次なようで間に合った。およそ満員とは言えないライブハウスでも、前側には人がかたまっている。みんなワイワイと談笑している、そんな中会場のBGMの音量が徐々にあがりフェードアウトしていく。大きなSEが鳴り響きボーカル以外のメンバーが入場してくる。わっと会場が沸き、私もばっと拳をあげる。ギターのハウリングとともにSEがなりやみ、透き通ったギターのアルペジオが鳴り響く。リバーブの効いたその音色はまるで水槽の中にいるかのようだった。そして少しずつあがっていく音量とともにボーカルが遅れて入ってくる。すかざずギターを背負いファズにまみれたコードをかき鳴らしながらおよそききとれない叫び声を上げ一曲目のタイトルコールと共になるギターのイントロ。ああ、何もかもを考えなくてよくなる、この感触が本当に大好きだ。私は無意識に拳を上げ前のめりになる。轟音を浴びながら私はボーカルと一緒にサビを歌う。かき鳴らして、その轟音でかきけして、と思いながら。