帰る

駅から出ると早い時間にもかかわらずあたりはもう真っ暗になっていた。周辺の賑わいを体現したような屋内の光の漏れ、街頭に照らされた狭い道を白い息を吐きながら歩く。前から来た堂々と道のど真ん中を歩く男女2人組に、譲るような形で、しかし少しの抵抗の意味を込めてしかめっ面で端に寄る。冬でも寒さ1番の時期になってきたなあ、と感じる。少し歩くと人の賑やかさから外れた道角にポツリと小さなケーキ屋が見えた。昔、よく寄っていたケーキ屋だった。仕事を変え忙しくなってから、開いている時間にこの道を通ることがなかなかできず、久しぶりに灯りがついている時間に立ち寄ることが出来た。昔からここのチーズケーキが好きで、思い立ってなんでもない日に買って帰ることが多かった。店内をのぞくと、店員のおばあちゃんと目が合った。いらっしゃい、と、どうも、声のかけあいをし、店内へ入った。閉店時間が近いからか、各ケーキが少しずつ、チーズケーキも2つしか残っていなかった。

久しぶりねえ、とショーケースを眺めていると突然声をかけられた。あげた僕の顔を見て、あら、違ったらごめんなさいね、と、驚いた。かなり久しぶりにきたはずなのに。お久しぶりです、すみません、最近忙しくてなかなか来れませんでした。と返す。

いいのよ、いつもチーズケーキだけを買って帰るお客さんなんてあなたくらいだからよく覚えてるのよ。今日もチーズケーキかい。

恥ずかしい。そこまで覚えられていたのか。僕は、はい、ひとつ下さい。と伝えた。

今日はひとつでいいの?と、僕は少し悩んでやっぱり2つくださいと頼んだ。丁寧に取り出したケーキを箱に包んだあとお会計を済ませる。ありがとうございます、と伝え箱を受け取り店を出る直前にメリークリスマス、と声をかけられた。

ぺこりと会釈をし、店を出て、再びあと少しの家まで歩きはじめる。そうか、もうすぐクリスマスか。時間の流れを早く感じる。歳のせいか。強めの冷たい風が吹く。寒さから鼻を啜ってしまう。早く家に帰って、食べよう。久しぶりにコーヒーでもいれようかな。僕は2つ入った1人用のチーズケーキが傾かないように、しかし足早に歩を進めた。